近年、新車でアイドリングストップ機能を搭載しないモデルが増加しています。かつては環境への配慮や燃料消費量の削減といった観点から注目を集めていたアイドリングストップ車ですが、なぜ廃止の傾向にあるのでしょうか。本記事では、アイドリングストップ機能の基本的な仕組みから、廃止されつつある背景、そしてそれによってもたらされるメリットまでを詳しく解説します。
目次
アイドリングストップとは
アイドリングストップとは、信号待ちや渋滞などで停車する際に自動でエンジンを停止する機能です。停車と同時にエンジンを停止する「アイドリングストップ」と、一定の車速まで減速すると自動的にエンジンを停止する「停車前アイドリングストップ」の主に2種類あり、いずれもその後の発進操作に合わせて自動的にエンジンを再始動させる仕組みとなっています。この機能は、特にストップ&ゴーの多い市街地での運転で効果を発揮するとされてきました。
アイドリングストップの歴史
アイドリングストップ機能が量産車に初めて搭載されたのは、1974年のことです。当時トヨタ・クラウンのMT車のオプションとして、「EASS(Engine Automatic Stop and Start System)」という名称で実験的に導入されましたが、ヘッドライト点灯時には作動しないなど、使用条件にはいくつかの制限があったようです。その後、1981年にスターレットの一部グレードの5段MT車で「エコランシステム」として進化を遂げましたが、普及には至りませんでした。
1997年に世界初の量産ハイブリッド車である初代プリウスが登場してからは、ハイブリッド車にもアイドリングストップ機能が搭載されるようになり、さらに2000年代以降はAT車への普及も一気に広がっていきました。
アイドリングストップが廃止されている理由
各自動車メーカーで長年にわたり重要視されてきたアイドリングストップ機能ですが、近年その搭載車両が減少しており、この傾向は今後さらに加速しそうです。具体的にその背景を見ていきましょう。
アイドリングストップの実態
まず挙げられるのが、自動車技術の進歩です。現代の自動車は、エンジンの高効率化や空力改善、車体の軽量化など、さまざまな進化を遂げたことによって、アイドリングストップ機能に頼らずとも優れた燃費性能を実現できるようになってきました。
また、ハイブリッド車や電気自動車などの電動車の普及も挙げられます。2023年の日本における新車販売の約55%をハイブリッド車が占めており、電気自動車やプラグインハイブリッド車を含めると、電動車の比率は約60%にも上ります。電気自動車にはアイドリング状態がなく、ハイブリッド車の場合は走行状況に応じて最適なタイミングでエンジンを停止させる制御が組み込まれているため、ガソリン車に搭載されてきた従来のアイドリングストップ機能は不要となっているのです。
燃費測定方法の変更
また、2017年からは、燃費測定方法が世界基準の「WLTCモード」に変更されました。「WLTC」は「Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle」の略で、「市街地」「郊外」「高速道路」といったシチュエーション別の走行モードで構成された国際的な燃費測定方法です。この変更により、停車時のエンジン停止が全体の燃費数値に与える影響が以前よりも小さくなったことも、アイドリングストップ機能の搭載を見直す要因となっています。
アイドリングストップ廃止のメリット
アイドリングストップにはメリットがある一方で、運転時の違和感などのデメリットを懸念する声も少なくありません。そのため、アイドリングストップキャンセラーを後付けで装着するユーザーも存在します。アイドリングストップ機能の廃止は、さまざまな恩恵をもたらします。
まず、クルマの維持費を抑えられる可能性が期待できます。アイドリングストップ専用バッテリーは通常のものと比べて価格が高く、エンジンの停止と始動の繰り返しで負荷がかかる分、寿命も短い傾向にありました。タイミングベルトやクランクシャフトなど、バッテリー以外のパーツの劣化も軽減できるので、経済的なメリットは大きいと言えるでしょう。
また、車内温度の快適性も向上します。アイドリングストップ車では、停車時にエアコンが停止したり送風に切り替わったりする場合がありました。特に真夏や真冬などに車内の温度を一定に保てるのはうれしいポイントです。
まとめ
アイドリングストップ機能は、かつての環境対策や燃費向上の主役でしたが、自動車技術の進化とともにその役割を終えつつあります。電動化の進展や新しい燃費基準の導入により、この機能を搭載しない車種が増えているのです。むしろこれを省くことで、メンテナンス性や快適性の向上、コスト削減といったメリットが得られる時代となっています。
かつての革新的な機能に代わって、より効率的な新しい機能が採用されていくのは自然な流れと言えるでしょう。今後も、より環境に優しく、ドライバーにとって快適で経済的な自動車技術の発展が期待されます。