トンネルを走行中、前方の遅いクルマにイライラしたことはありませんか？　なかには「追い越してしまおうか」と頭をよぎった経験があるドライバーさんもいるかもしれません。しかしトンネル内での追い越しは原則禁止されており、非常に危険な行為とされています。今回の記事では、トンネル内での追い越しが禁止される理由や、その危険性について詳しく解説していきます。

トンネル内での追い越しは原則禁止されている

まずはトンネル内での追い越し禁止の内容について詳しく見ていきましょう。

厳密には片側一車線のトンネル内での追い越しが原則禁止

道路交通法第30条によると、追い越しを禁止する場所の1つに「トンネル」が挙げられています。ただし、この規定には「車両通行帯の設けられた道路以外の道路の部分に限る。」という条件が付いており、厳密には片側一車線のトンネル内での追い越しが原則禁止されているのです。

追い越しが可能かどうかはトンネルによる

片側二車線以上のトンネルでは、法律上は追い越しが可能ということになりますが、実際にはトンネルごとに状況が異なるため注意が必要です。例えば、道路標識や道路標示によって追い越しが禁止されている場合があります。特に高速道路のトンネルでは、片側二車線以上であっても追い越しが禁止されているというケースもめずらしくありません。

また、追い越しが可能なトンネルであっても、センターラインの破線と実線、白色と黄色などによってはみ出し通行のルールが異なるので注意してください。センターラインの種類による追い越しルールについてはこちらの記事で解説しています。

トンネル内での追い越しが危険な理由

トンネル内での追い越しが危険と言われる背景には、いくつかの理由があります。ここでは3つの理由について詳しく見ていきましょう。

速度感覚がつかみにくい

通常、ドライバーは周囲の景色が流れることで速度を感じていますが、トンネル内では周囲の景色が変化しないため、この感覚が鈍くなります。その結果、実際の速度よりも遅く感じてしまい、知らず知らずのうちにスピードを出しすぎてしまうことがあります。

また、長時間、先行車に追従して同じ速度で走行していると、まるでクルマが止まっているかのような錯覚に陥り、先行車がブレーキを踏んだときに反応が遅れて追突事故を起こす可能性もあります。

このような速度感覚の変化は、追い越しを行う際にも危険です。追い越しの際には正確な速度判断が必要ですが、トンネル内ではそれが困難になるため、事故のリスクが高まります。

傾斜が付いている

トンネル内には排水のために傾斜が付いています。一般的に、地上にあるトンネルの場合、0.5～2%程度の勾配が付けられています。例えば2%の勾配が1km続いた場合、約20mもの高低差が付くことになるのです。

下り坂では無意識にスピードが出やすく、反対に上り坂ではスピードが落ちやすくなります。このような場所での追い越しはなるべく避けた方が良いでしょう。

出入り口付近で周囲の車両の速度が落ちがち

トンネルの出入り口付近では、周囲の車両の速度が急激に変化することがあります。これには主に2つの理由があります。

まず、明るさの変化です。トンネルに入る際には「ブラックホール現象」、出る際には「ホワイトホール現象」と呼ばれる現象が起こります。これらの現象は人間の目が明暗に順応するのに時間がかかるために起こるもので、どちらも一時的に視界が悪くなります。このとき、多くのドライバーが無意識のうちにスピードを落とします。

次に、心理的な影響があります。トンネルに入ると急に道幅が狭く感じられ、圧迫感を感じる人も少なくありません。そのため、アクセルペダルを緩めてしまう傾向があります。

これらの理由により、トンネルの出入り口付近では周囲の車両の速度が不安定になりやすく、追い越しを行うには非常に危険な状況となります。特に、トンネルの出口付近で追い越しを行おうとした場合、突然前方の車両が減速したり、天候の急変による渋滞に巻き込まれたりする可能性があり、非常に危険です。

トンネルで追い越しをした際の行政処分や罰則は？

追い越しが禁止されているトンネル内での追い越しは、厳しい処分や罰則の対象となっています。行政処分としては、違反点数が2点加算され、反則金として普通車の場合9,000円が科せられます。さらに、道路交通法上の罰則として、3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金が定められています。

まとめ

トンネル内での追い越しは原則禁止されているだけでなく、重大な事故につながる行為です。速度感覚の変化、道路の傾斜、出入り口付近での周囲の車両の速度変化など、ほかの道路とは異なる多くの危険が存在します。もし禁止されていなかったとしても、可能な限りトンネル内での追い越しは避けるのが賢明です。安全のために車間距離を十分に保ち、余裕をもった運転を心がけましょう。