クルマを安全に運転するためには定期的な点検と整備が欠かせません。しかし、法定点検は車検と混同されがちで、その内容や重要性について十分に理解されていないのが現状です。
12カ月法定点検は車検とは異なる義務点検です。費用相場・点検項目・受けないリスクをわかりやすく解説します。
目次
12カ月法定点検の基礎と車検との違い

多くのドライバーが「車検を受けているから安心」と考えがちですが、実は法定点検には車検とは異なる目的と役割があります。ここでは法定点検の基本的な仕組みと、混同しやすい車検や日常点検との違いについて詳しく見ていきましょう。
法定点検の目的と法律根拠
クルマを使用する人は、クルマの点検・整備をして自動車を保安基準に適合するように維持する義務があります(道路運送車両法第47条)。
まず法定点検とは、正式には「定期点検整備」と呼ばれ、道路運送車両法第48条で義務付けられている点検のことです。この法律では、自動車の使用者に対し、一定の期間ごとに国土交通省令で定める技術上の基準にしたがって自動車を点検することを求めています。新車・中古車などにかかわらず、1年に1度必ず実施する必要があるのです。
24カ月点検との違い
自家用車(普通自動車・軽自動車)の場合、1年ごと(車検と車検の間)に受ける「12カ月点検」と2年ごと(車検と同時。新車の場合は3年目~)に受ける「24カ月点検」の2つの法定点検が義務化されています。これらは受ける時期の違いに加えて、点検項目の数も異なります。12カ月点検では29項目、24カ月点検では60項目(12カ月点検の項目を含む)という違いがあります。
なお、これらの法定点検は車検や日常点検とは異なるものです。
車検は、一定期間ごとに国が自動車の安全・環境基準への適合性を最小限チェックするものであり、新車登録から初回は3年、以降は2年ごとに受ける義務があります。車検に合格したからといって、ほかの点検・整備を省略できるわけではありません。
また、日常点検も使用者の義務である点は同じですが、法定点検よりも簡単に実施できる内容になっています(液類の量、ブレーキペダルの踏みしろ、タイヤの状態チェックなど)。自家用車の場合は走行距離やクルマの状態を考慮しながら適切な時期に実施しましょう。
点検タイミングとステッカーの読み方
12カ月点検を受けるタイミングは、前回の点検から12カ月以内です。定期点検を受けるとフロントガラスに「点検整備済ステッカー(ダイヤルステッカー)」が貼られます。このステッカーには次回の点検実施時期(表面には年月、裏面には年月日)が記載されているので、これを目安にスケジュールを立てましょう。
もし点検日を過ぎてしまった場合でもペナルティが発生することはありませんが、安全のためにもなるべく早めに点検を受けることをおすすめします。点検場所によっては、点検のタイミングに案内ハガキが送られてくる場合もあります。
12カ月法定点検の主な点検項目

先述の通り、12カ月法定点検の項目数は全部で29項目となっていますが、自家用車の場合は「走行距離が年間5000km以下」かつ「前回点検を行っている」場合に限り、特例で11項目の点検を省略できます。ここではパーツごとの点検項目を抜粋してご紹介します。
ブレーキ系
- ブレーキの利き具合
- ブレーキシューの摺動部分やライニングの摩耗
- パーキングブレーキの踏みしろ(引きしろ)
- ブレーキパッドの摩耗※
エンジン系
- エンジンオイルの漏れ、汚れ、量
- パワーステアリングベルトのゆるみ、損傷
- ファンベルトのゆるみ、損傷
- 点火時期
足回り・下回り系
- タイヤの空気圧、亀裂、損傷※
- ホイールナット・ボルトのゆるみ※
- エキゾーストパイプやマフラーのゆるみ、損傷※
- プロペラシャフトやドライブシャフト連結部のゆるみ※
※は「走行距離が規定以下(自家用車の場合は年間5000km)で、前回の点検を行っている場合に限り、特例で省略可能な点検項目
タイヤの日常的な点検項目や、車検制度の最新情報については過去記事もご参考に。
12カ月法定点検の費用相場は、ディーラーと整備工場で違う?
12カ月法定点検を受ける際に最も気になるのが費用の問題ではないでしょうか。ここでは、主要な依頼先であるディーラーと民間整備工場の料金相場、そして費用を抑えるためのポイントをご紹介します。
標準工賃の目安
12カ月法定点検を受けるにあたって必要な工賃は、車種や業種によっても異なりますが、ディーラーと整備工場のいずれも1万円~2万円程度が目安となっています。シビアコンディションなどで点検項目を増やす場合や、点検の結果、修理や交換が必要になった場合は追加料金がかかります。なお、点検にかかる時間は1~2時間程度のところが多いようです。
お得にすませる方法はある?
整備に慣れているドライバーであれば、点検費用を浮かせるためにセルフで点検するという手もあります。また、ディーラーよりも車検専門店や整備工場に依頼したほうが費用を安く抑えられる場合もあります。できれば即決せず、複数の業者に見積もりを取って比較検討すると良いでしょう。
受けないとどうなる?罰則と損失
最後に、法定点検を怠ることで発生する可能性のある損失やデメリットについて、具体的に解説していきます。
法的ペナルティと点数
法定点検は義務規定ですが、受けなかった場合の罰則はありません。(事業用車両には罰則あり)。ただし、整備不良が原因の事故を起こした場合、法定点検を受けていたかどうかで、ドライバーの責任割合が変わる可能性があります。点検を受けずに整備不良による事故を起こした場合、重い罰則が科されることもあるので注意したいところです。
故障・事故リスク
法定点検は、日常点検や車検よりも詳細な点検・整備を行うものです。法定点検を受けなかった場合、クルマの異常を見落として突然の故障やトラブルを起こすリスクが上がります。また、メーカー保証は法定点検の実施を前提としているため、法定点検を受けていないとメーカー保証を受けられなくなる可能性もあります。
中古査定時の影響
法定点検の実施記録は、点検整備記録簿に記載されます。中古車売却時にはこの記録簿がチェックされるため、点検歴がないと査定価格が下がってしまう可能性があります。
まとめ
法定点検はドライバーに課された重要な義務の一つです。故障やトラブルの未然防止だけでなく、事故時の責任軽減、メーカー保証の適用、中古車の査定アップなど、さまざまなメリットがあります。点検整備記録簿は確実に保管し、次回の点検時期も忘れずにチェックしておきましょう。