体を揺さ振るスピードと振動、耳をつんざく大音響とタイヤの焼けるニオイ、そして観客席の一体感。まさに五感を使って体験する、その場でしか味わえない臨場感が、モータースポーツの魅力です。それだけでも十分ですが、テレビでの観戦時に耳にするような解説を頭の中に入れておくと、よりいっそう楽しめること、間違いなし。「“五感”で楽しむ実践ポイント」で紹介した観戦ポイントと、合わせて覚えておきたいドリフトの魅力がますます髙まる豆知識、「歴史」「試合形式」「クルマ」のポイントを紹介します!
目次
実は日本発祥! ドリフトブームの歴史
お尻を振り出しながらカーブを曲がる「ドリフト走行」。ラリー競技などでは後輪がスリップしやすいため、一般的に使われている運転テクニックのひとつです。しかし、時代の流れとともに競技用車両の主流が前輪駆動車と移り変わっていったことと、ドリフトをすることでタイムが遅くなってしまうことが相重なり、タイムを競う競技からはだんだんとドリフトは廃れていきました。
そんな1980年代、雨中のレースでカッコよくドリフトを決め、しかもトップゴールした選手が登場。日本に一躍、ドリフトブームが到来します。その選手が「ドリフトキング」で略して「ドリキン」こと土屋圭市選手だったのです。
その後、世界的にドリフトが注目を浴びるきっかけになったのが、人気映画『ワイルド・スピード』シリーズの第三弾で、2006年に公開された『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』。その名の通り舞台は日本で、土屋選手も協力した本物のドリフトは世界中でファンを魅了したのです。
今ではヨーロッパの高級車メーカーでもドリフトをPVで活用しています。そして、「ドリフト」の名称も世界で通じるものになっています。元々「ドリフト」は和製英語で、本来の英語では「Sideways」と呼びますが、「SUSHI」同様に「DRIFT」の名称が完全に定着するまでになっています。
そして、ドリキン土屋氏はドリフトを単なる運転テクニックに終わらせることなく、モータースポーツとして普及させることに尽力します。その1つが「D1GP(D1グランプリ)」です。
ドリフトを「モータースポーツ」に昇華させたD1GP
エキシビションマッチを含め、年間に7回開催されるD1GPには、「単走」と「追走」の2つの試合形式があります。それぞれの見どころはというと…。
技術のレベルとスピードが決め手の「単走」
コースの走破タイムに加えて、ドリフトの速度や美しさなどから点数が決まり、それにより勝敗がつきます。速度や角度の大きさは、各車に搭載される独自の機械採点システム「DOSS」で計測されます。この速度と角度が大きいと、得点が高く高評価に。
- エンジン音が途切れない
- スムーズな動き
- 振り出し、振り返しの動作がクイック
さらに上記のポイントが加わると、評価はさらに高まります。 反対にスピンしたり、ドリフトの戻りがあると、減点の対象に。ドライバーの持つ技術の見せどころが、この「単走」です。どんな走行が高評価を得られるのか、得点を見ながら審査員気分で観戦できますよ。
ドリフトをより深く楽しむ見どころポイントが「角度」、そして「飛距離」。簡単に解説すると…。
角度:ドリフト時の車体の角度を意味し、深いアングルであればあるほどカッコいいとされます。特に90度以上の角度を持って、コーナーに車体後部から入っていく「ケツ進入」ドリフトは高い技術が要求されるテクニック。別名「イリュージョン」とも呼ばれ、まさにテクニックの見せどころ。
飛距離:コーナーのどれくらい手前からお尻を振り出すことができるか、そしていかに長くドリフトを維持していられるか。飛距離が伸びるほど喚声の大きさも高まります!
1対1のドリフトバトル「追走」で大興奮!
もう1つは1対1でドリフトを競う「追走」です。2台のトーナメント形式で行われる試合では、先行車を後追い車が追いかけながら規定の区間をドリフト走行し、先行と後追いを入れ替えて2回走行します。
この2回の走行で決着がつかないときには、サドンデス制の延長戦に。この追走トーナメントは緊張感が絶えず、初めて観戦する人をも熱狂させる、大興奮の観戦ポイント!
追走の勝負のポイントは、先行が見せたドリフトテクニックを、後追いが追従して行い、その相対的なランクを評価するルールです。先行が仕掛け、後追いがそれに応える、選手同士の得意・不得意を絡めた駆け引きは、選手のパーソナリティーを知るといっそう深みを感じられますよ。
テクニックと駆け引き、そしてスピードを駆使したドリフトマシンを会場で見れば、派手なタイヤスモークとそのニオイにも自然と感覚が引き寄せられてしまいます。テレビや動画で見たときには、想像もつかない速さ、音、ニオイにびっくりすること間違いありません。
ドリフトマシンにも注目すれば、より深く楽しめる!
ドリフトは後輪を滑らせて、前輪はカウンターステアをあてるため、多くが後輪駆動車(FR)です。しかし、ご存じの通り、今では前輪駆動車(FF)が主流ですっかりマイナーな存在に。そのため1990年代に登場した「RX-7」や「シルビア」などFR車の流れを汲む車両が現在でも活躍しています。
ドリフトを題材とした漫画『頭文字D(イニシャルD)』では、数多くのドリフト車が登場しますが、人気を集めるのは、やはり主人公の乗るAE86型スプリンタートレノ、通称ハチロクです。この名前をとってトヨタでは2012年発売したFR車を「86」と名付けてしまったほど。
前述の「RX-7」や「RX-8」は生産を終了しましたが、同じマツダの「ロードスター」は連綿と生産が続いてます。ノンターボのため、アンダーパワーでドリフトには不向きと言われてきましたが、2016年シーズンではロードスターで参戦したドライバーが初めて登場。滑りやすい路面で見せる「人馬一体」の自在なコントロールも、車種を知ってから観戦すると、そのすごさが実感できますよ。
「D1GP」の他にも、全国各所のサーキットで、ドリフト競技は数多く開催されています。会場にもよりますが、中学生以下無料(保護者同伴に限るケースが多いです)というレースもありますので、ぜひ親子で一度観戦してみてはいかがでしょうか? もちろん、お父さんの解説付きで!