自動車のタイヤは、路面と車両をつなぐ唯一の接点です。その状態管理がデジタル技術によって劇的に進化しています。かつては目視とエアゲージで測定していた空気圧をリアルタイムでモニタリングする「TPMS(タイヤ空気圧監視システム)」もその一つ。運転中にも、リアルタイムでタイヤの状態をドライバーが把握できる時代になりつつあります。物流業界における効率化の切り札として注目を集め、やがて一般ドライバーの安全運転にも貢献する可能性を秘めたこの技術について、その仕組みと未来像を探っていきます。
目次
「TPMS」とは?
「TPMS」は「Tire Pressure Monitoring System(タイヤ空気圧監視システム)」の頭文字で、タイヤやホイールに装着したセンサーでタイヤの空気圧をリアルタイムで監視し、異常があればドライバーに警告するシステムです。
米国では2007年9月以降に製造された新車を対象に装着が義務化され、その後、EUでも2014年以降、韓国では2015年以降に義務化されています。そのほか、中国、台湾、ロシア等でも装着を義務化する動きは広がり、日本ではランフラットタイヤを装着する際に、TPMSの使用が義務付けられています。また、商用車を中心に導入が進んでいます。
このシステムの目的は、人間の目や感覚では気づきにくい微細な空気圧の変化を、センサーとデジタル技術で可視化することです。タイヤの空気は自然に抜けていきますが、その変化は緩やかで、ドライバーが異常を感じたときには既に危険な状態になっていることも少なくありません。TPMSは、見えない危険を早期に発見し、事故を未然に防ぐ役割を担っています。
なぜ空気圧管理が重要なのか

タイヤの空気圧は、「ドライブの安全性」「燃費」「タイヤの寿命」に大きく影響します。
ドライブの安全性
空気圧が低下すると、タイヤと路面の接地面積が変化し、制動距離も変化します。カーブでの安定性も損なわれ、高速走行時には重大な事故につながるリスクが高まります。特に高速走行時には、タイヤの側面が波打つ「スタンディングウェーブ現象」が発生し、タイヤが発熱してしまいます。この状態が続くと、タイヤの内部構造が損傷し、最悪の場合、走行中にバーストする危険性が高まります。
また空気圧が高すぎると、タイヤが固くなり、路面の凹凸や段差からの衝撃を吸収できなくなります。縁石への接触や障害物を乗り越えた際に、タイヤの側面に傷や亀裂が入りやすくなり、そこから破損やバーストに至る可能性が高まってしまうのです。
燃費の悪化
タイヤの接地面積が増加すると、路面との転がり抵抗も大きくなり、燃費の悪化を招きます。つまり、適正空気圧より低い状態で走行するのは、ガソリンをムダにしているのと同じこと。商用車であれば、その影響は年間の運行コストとして顕在化します。
タイヤの寿命への影響
空気圧不足によるタイヤの偏摩耗や異常発熱は、タイヤの劣化を早め、交換サイクルが短くなってしまいます。定期的な空気圧チェックとTPMSによる常時監視は、タイヤの寿命を延ばすほか、タイヤ交換頻度を減らしコストを削減することにもつながります。
TPMSの種類:「間接式」と「直接式」
TPMSによる空気圧計測方式には大きく分けて「間接式」と「直接式」があります。
間接式TPMSは、既存のABS(アンチロック・ブレーキ・システム)やESP(横滑り防止装置)の車輪速センサーを活用してタイヤの空気圧を計測します。空気圧が低下したタイヤは直径がわずかに小さくなり、正常な空気圧のタイヤよりも回転数が増えます。この回転数の差を検知することで、空気圧の異常を判断する仕組みです。追加のセンサーを必要としないため、コストが抑えられるという特長があります。
一方、直接式TPMSは、各タイヤのホイール内部に圧力センサーを装着し、空気圧と温度を直接測定します。測定データは無線で車両本体に送信され、ダッシュボードやモニターに表示されます。リアルタイムで正確な数値が把握できるため、異常の早期発見が可能です。商用車向けTPMSの多くは、精度の高い直接式が採用されています。
商用車のタイヤのデジタル状態管理
商用車の世界では、TPMSは単なる安全装置ではなく、経営を支えるマネジメントツールとして機能し始めています。
トラックやバスは、高頻度で長距離走行をするため、タイヤへの負荷が大きくなります。一台の大型トラックに装着されるタイヤは10本以上にもなり、そのすべてを日常的に点検するのは企業やドライバーにとって大きな負担になっています。TPMSの導入により運行中のタイヤの状態をリアルタイムでモニタリングし、異常があれば即座に対応できる体制を作ることで、タイヤの空気圧低下による、安全性の不安、燃費の問題、タイヤ寿命の問題などの課題に対処できるのです。
TPMSを通じて収集された空気圧などのデータはクラウドに蓄積され、空気圧の推移、温度変化、走行距離とタイヤ摩耗の相関など、これまでブラックボックスだった情報が可視化されます。ドライバーが車内のタブレットでチェックできますし、トラックやバスの管理ルームでもリアルタイムでタイヤの状況を確認できるようにもなります。例えば、路線や車両ごとのタイヤの状態をチェック・管理したり、タイヤ交換のタイミングを最適化できます。突発的なトラブルが減り、安全性が高まるだけでなく、メンテナンスコストも削減できます。
なぜTPMSが導入されているのか?物流の2024年問題とタイヤDX

日本では商用車を中心に導入が進められているTPMS。その理由の一つに「物流の2024年問題」があります。
2024年4月から、トラックドライバーやバスドライバー、タクシードライバーの拘束時間に従来よりも厳しい上限規制が設けられました。労働時間の制約が厳しくなる中、物流業界は限られた時間内で荷物を運ぶ、効率性が求められるようになりました。
JAFの調査によれば、2024年度の高速道路での、四輪車のロードサービス出動理由トップは「タイヤのパンク、バースト、エアー圧不足」で、約4割を占めます。
タイヤトラブルによる緊急停車や修理は、事故につながるばかりでなく、貴重なドライバーの労働時間を奪うことにもなります。事前にタイヤの異常を検知して、計画的な整備を行うことで、予期せぬトラブルの回避を目指すのがTPMS導入の大きな理由になっています。
また、燃費の改善は、直接的なコスト削減に加えて、環境負荷の低減にもつながります。持続可能な物流を実現するうえで、タイヤのデジタル管理(タイヤDX)は欠かせない要素となりつつあります。
タイヤDXのこれから:次世代のドライブを見据えて
既に海外では、乗用車へのTPMS装着が法制化されており、日本でも輸入車を中心に標準装備が進んでいます。今後、国産車においても、安全装備の一環としてTPMSが採用されるようになるかもしれません。個人向けのTPMSサービスとして、スマートフォンと連動し、出発前にタイヤの状態を確認できるアプリも登場しています。
さらに、自動運転技術の発展とともに、TPMSはより車両制御システムの一部として機能することも予測されます。タイヤの状態をリアルタイムで把握し、走行特性を最適化する。路面状況とタイヤの接地状態を統合的に判断し、ブレーキやステアリングを自動調整する……。そんな運転の未来は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。



