交通事故の原因はさまざまですが、中には人間の「目の錯覚」によって引き起こされるものもあります。今回は、見通しのよい直線道路の交差点で発生しやすい錯覚現象「コリジョンコース現象」について解説します。
別名は「田園型事故」「十勝型交通事故」
「コリジョンコース現象」とは、見通しのよい交差点などでお互いの車両の存在を認識できていたにも関わらず、出合い頭で衝突してしまう現象。コリジョン(Collision)は「衝突」、コース(Course)は「進路」を意味する言葉です。
田園地帯などで起こりやすいことから「田園型事故」、過去に北海道の十勝地方で多発したことから「十勝型交通事故」とも呼ばれます。
その正体と原因は?
コリジョンコース現象の最大の特徴は、“近づいてくる車両が止まって見える”こと。これには人間の目の錯覚が関係しています。
人間の視界は正面を中心に左右それぞれ約100度まで見えるといわれていますが、その中でも物の色や形をはっきり認識できる「中心視野」は左右それぞれ35 度程度とごくわずか。それ以外の視界は動かないものを認識しにくい「周辺視野」で、ドライバーは周囲から近づく車両をこの「周辺視野」でとらえやすくなっています。
その結果、直角に交差した道路を走る2台の車両が同じスピードで近づくと、“お互いの車両が止まって見える”という錯覚に陥ります。気づいたときには回避しきれず、衝突事故を起こしてしまうのです。
実際に事故発生時のドライブレコーダー映像などを見ると、一見、視界の車は止まっているようには見えないかもしれません。しかし、ドライバーの目からはそう見えないのがこの現象の怖いところです。
もしスピードに差があれば、車が移動するにつれて「周辺視野」から「中心視野」へと移るため、相手の車の動きを認識できるのですが、同じスピードで走っていると、お互いのドライバーの「周辺視野」内に相手の車が入り続けてしまいます。そのため、周辺の風景と同じように「止まっているもの」と脳は認識してしまうのです。
また、ドライバーから死角になりやすい前方の「ピラー(窓柱)」にちょうど隠れて、相手の車に完全に気づかない場合もあります。
コリジョンコース現象で起きた事故は大事故になりやすい?
ふだんは慎重な運転を心がけているドライバーさんでも、交通量が少なく開けた道路ではつい油断してスピードが出てしまうこともあるのではないでしょうか。このような状況でコリジョンコース現象が起こると、ドライバーは接近してくる車に気づかず、衝突寸前までスピードを落とさないため、大きな事故に発展しやすいのです。場合によっては死亡事故につながる可能性もあります。
過失割合はどうなる?
コリジョンコース現象によって実際に事故を起こしてしまった場合、過失割合は基本的には事故の当事者の協議となるため一概には言えません。信号機のない交差点では「左方優先」の原則(道路交通法36条1項)で左側から進入する自動車が優先となりますが、道路の道幅の関係や、優先道路・一時停止などの道路標識の有無によって過失割合が変わる可能性もあるので覚えておきましょう。
コリジョンコース現象を防ぐために
コリジョンコース現象を防止するため、全国の事故多発地点では、ドライバーに注意を促すために道路をデコボコにした「減速帯」や、路面標示・標識を設置するなどの対策が進められているほか、近年は信号のない円形交差点「ラウンドアバウト(環状交差点)」の整備も注目されています。
ドライバー自身ができる対策としては、できるだけ視野を広くもつことが有効です。見通しの良い直線道路で交差点を見つけたら、意識的に首や頭を動かして周囲の状況を確認しましょう。目線だけでなく頭の位置も変えることで中心視野を広げ、死角も減らせます。また、交差点に近づく際は一時停止の標識がなくても速度を少し落としておくといいでしょう。
目の錯覚は誰にでも起こり得るものですが、意識しておくだけで危険を最小限に抑えられます。日ごろから交通ルールを守りつつ、見通しのよい場所こそ油断せず安全運転を心がけたいものですね。