突然の「雹(ひょう)」による被害は、ドライバーにとって他人事ではありません。空から大きな氷の塊が降り注ぎ、愛車に無数のへこみや傷が残る光景は想像したくありませんが、万が一の事態に備えておくことは非常に重要です。
雹が発生しやすいのは毎年5月〜8月。積乱雲の発達しやすい夏場は、あっという間に天気が急変して思いがけず雹害に遭ってしまうことも…。
この記事では、ドライバーが雹害に直面した際の「安全確保」「修理方法の選択」「保険適用の知識」という3つの柱について、取るべき行動を解説します。慌てず、正しく対処するための基礎知識を身につけましょう。
目次
雹(ひょう)と霰(あられ)の違い
まずは「雹」と、それに似ている「霰」との違いを明確にしておきます。気象庁の定義に基づいて解説すると、以下のような違いがあります。
- 雹(ひょう)
積乱雲から降る、直径5mm以上の氷の粒。非常に硬く、大きいものになるとゴルフボール大、あるいはそれ以上になることもあります。クルマのボディをへこませたり、ガラスを割ったりする深刻な被害をもたらすのは、主にこちらです。 - 霰(あられ)
雲から降る、直径5mm未満の氷の粒。白色で不透明なものが多く、雹に比べて柔らかい(または小さい)ため、クルマに深刻なダメージを与えることは比較的稀です。
雹と霰の違いは「直径の大きさ」。その大きさ故に、雹がクルマなどへ当たると被害は大きくなるわけです。
ドライブ中に雹が降ったときには安全確保を最優先に

もし運転中や屋外で雹に遭遇したら、何よりもまず自身の安全確保が最優先です。クルマは修理できますが、自分がケガをしては元も子もありません。パニックにならず、以下の優先順位で行動してください。
退避の優先順位
- 屋内駐車場や頑丈な屋根の下へ退避
地下駐車場や立体駐車場、高架の下など、頑丈な「屋根」がある場所が最も安全です。可能であれば、速やかにそこへクルマを移動させましょう。 - 退避する屋根がない場合はカバーなどでクルマを覆う
すでに駐車中であり、移動が難しい場合は、自動車用のボディカバーや厚手の毛布、段ボールなどを使って車体を覆うことで、雹害を緩和できる可能性があります。雹が降り注ぐなかで屋外で作業するのは非常に危険です。自身の体の安全に配慮しながら、迅速に行いましょう。 - 運転中に遭遇した場合は、安全に左側へ寄せ停車
運転中に激しい雹に遭遇し、視界不良や危険を感じた場合は、無理に走行を続けないでください。ハザードランプを点灯し、周囲の安全を確認しながらゆっくりと路肩や安全な待避スペースにクルマを寄せ、停車します。雹が車体を叩く音は非常に大きく不安を感じるかもしれませんが、ケガを防ぐためにも慌てて車外に出るのは避けましょう。車内で雹が弱まるのを待つのが最も安全です。
修理方法と選び方
雹が止み、周囲の安全が確認できたらクルマの状態を確認しておきましょう。雹害の修理方法は、被害の程度によって大きく2つに分けられます。
1:デントリペア
「デントリペア(ペイントレスデントリペア:略称PDR)」は、塗装を伴わずに、特殊工具でボディの金属部分にできたへこみを短時間で修復する方法です。
<向いているケース>
- 塗装面に傷や割れがない:雹による塗装の剥がれや傷がなく、被害がへこみだけの場合。
- へこんだ箇所の裏側に工具が入れられる:修理箇所が「裏骨(フレーム)」と重なっていないこと。
メリット: 塗装を行わないため、費用が安く、修理時間も短期間です。オリジナルの塗装を維持できるのも大きな利点です。
2:板金やパネル交換
雹が当たって塗装が剥げている場合や、デントリペアでは対応できない箇所のへこみがある場合は、板金塗装、あるいはパネル(部品)交換が必要になります。
<向いているケース>
- 塗装面に傷・割れがある:へこみだけでなく塗装が剥げたり、割れたりしている場合。
- パネル全体の歪みが大きい:へこみが無数にある、または一つ一つのへこみが深かったり、プレスライン(ボディの折り目)が潰れたりしている場合。
自動車保険で雹害修理がカバーできる場合と注意点
雹害による被害を修理するには高額な費用がかかることがあります。しかし、車両保険に加入していれば補償を受けられる可能性があります。一般型の車両保険はもちろん、補償範囲の狭いエコノミー型の車両保険でも、雹害は「飛来中または落下中の他物との衝突(飛び石など)」とされて補償されることが多いです。念のため、加入中の車両保険で雹害での修理費用が補償対象となるか、契約内容を確認しましょう。
また車両保険の対象となるのはクルマだけで、人のケガや車載物の破損などは対象外になります。
等級や翌年保険料への影響
車両保険による補償を使うと、翌年の保険料にも影響します。雹害で車両保険を使った場合、契約継続の等級は1等級ダウンとなり、加えて、事故あり係数適用期間が1年加算されるため、次の契約年度からの割引率や割増率が変わります。
保険を使用すると翌年以降の保険料が上がるため、「修理見積額」と「保険料の増加分」を比較検討し、保険を使うか自費で修理するかを判断する必要があります。
申請時に必要な“証跡”

保険会社にスムーズに審査してもらうためには、「いつ、どこで、どのような被害に遭ったか」を客観的に示す「証跡(しょうせき)」を整えることが非常に重要です。
雹害時の写真の撮り方
雹害による被害状況を正確に伝えるため、「クルマの全体写真」「雹害の被害を受けた箇所(へこんだ・傷ついた箇所)」が分かるように撮影しておきましょう。また被害状況が分かりやすいように、複数の角度・方向から撮影するのがポイントです。写真のほかには、発生日時や場所、当時の現場の気象情報(注意報の発表情報)なども記録しておくといいでしょう。
雹害についてのよくある誤解

最後に、雹害に関してよくある誤解や、被害後の注意点について解説します。
「毛布で完全防御できる」は誤解
「雹が降ってきたら毛布をかぶせれば大丈夫」という対策を聞いたことはないでしょうか。確かに、厚手の毛布でクルマを覆えば雹害を緩和できます。
しかし、毛布1枚では大きな雹の衝撃を緩衝させるには厚さ不足となる可能性も。また、一般的なシングルサイズの毛布1枚ではクルマ全体を覆いつくせません。ざっと見積もっても、フロントガラスとリアガラスで1枚ずつ、天板で1枚、サイド片側で2枚、ボンネットとトランクで1枚ずつと、10枚程度の毛布がないとクルマ全体を守れません。
毛布があるからといって過信はせず、「頑丈な屋根の下への退避」という最善策を選ぶよう心がけましょう。
雹害後はクルマを走行できる?
雹害に遭った後、クルマを動かして良いかどうかの判断基準は、「被害はボディのへこみだけか」「ガラスやライトの破損があるか」という2点によります。
- 走行するのは危険な状態
- フロントガラスやライト・ミラー類が破損:フロントガラスの破損により良好な視界が確保できない状態での走行は、道路交通法違反であり極めて危険です。また破損によりライトが正しく点灯できない場合や、サイドミラーが破損している場合も同様に危険ですので、走行は避けましょう。
- 注意しながらの運転は可能
- ボディにへこみがあるだけで、フロントガラスやライト類、機器が無傷であれば、走行自体は可能な場合が多いです。ただし、見た目では分からなくても、内部の部品にダメージが及んでいる可能性もゼロではありません。できるだけ早く修理工場やディーラーで点検を受けましょう。
まとめ:万が一の雹害に備えて、保険内容の確認を
雹害は、どれだけ注意深く運転していても避けることが難しい「自然災害」です。一瞬にして愛車が傷つき、大きなショックを受けるかもしれませんが、最も重要なことは、ドライバー自身の安全です。
運転中に激しい雹に遭遇したら、クルマを頑丈な屋根の下へ避難させるか、それが不可能なら安全な場所に停車し、車内で身を守ることを最優先してください。
そして、平時にこそできる備えがあります。それは車両保険の契約内容を確認しておくこと。万が一雹に遭遇したときに、保険が使えるかどうかを知っているだけで、冷静な判断につながります。この記事で解説した情報が、安全で安心なカーライフの一助となれば幸いです。



