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冠水路で慌てないために――一般乗用車の浸水対策と緊急対応ガイド

冠水路で慌てないために――一般乗用車の浸水対策と緊急対応ガイド
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毎年のように報告される車両浸水事故。「まさか自分が」と思っていても、ゲリラ豪雨や台風による冠水は時と場所を選びません。特に車高の低い乗用車では、想像以上に浅い水位でエンジンが停止し、命に関わる事態になる可能性もあります。

今回の記事では、冠水時の正しい判断基準から緊急脱出方法まで、命を守るために必要な情報をお伝えします。

はじめに:冠水被害が増える背景と危険水位の目安

冠水路で慌てないために――一般乗用車の浸水対策と緊急対応ガイド

近年の気候変動により、従来の想定を大きく上回る豪雨災害が各地で発生しています。台風による大規模な河川氾濫に加えて、急な集中豪雨による局所的な道路冠水も増えているといわれています。これらの現象は事前予測が難しいケースもあり、普段は安全な道路が突然危険地帯に変わる可能性があるのが厄介なところです。

近年の水害と被害規模

国土交通省によると、2023年の水害被害額は全国で約6,800億円に達し、過去10年間で3番目の規模となりました。もし車両保険に加入していたとしても、等級が下がることによる保険料の値上げや代替交通手段の確保など、予想以上の経済的負担が発生する可能性があります。

危険水位の目安(タイヤ半分≒約30 cm でエンジン吸気に到達)

一般的な乗用車における目安としては、道路冠水の水位が10cm程度からブレーキが利きにくくなり、30cm程度になるとマフラーから水が逆流してエンジンが停止するおそれがあります。タイヤ半分程度の水位で移動が困難になるということを覚えておきましょう。

冠水によるクルマの浸水とは?

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車両の冠水事故は、想像以上に身近な場所で発生しています。地域によっては地形的な特徴や排水システムの限界などにより、短時間の雨で危険な状況に陥ることもあるので注意が必要です。ここでは冠水が発生しやすい場所と浸水リスクについて理解しておきましょう。

冠水が発生する主な状況

道路冠水の最も典型的な発生場所は、交差する道路や線路をくぐり抜けるように地下を通る「アンダーパス」です。これらの箇所は周囲よりも低い位置にあるため、雨水が自然に集まりやすく、排水能力を超えると急速に水位が上昇します。アンダーパスの手前には注意喚起の標識が設置されていたり、大雨時に交通規制が行われたりすることもあります。

アンダーパス以外にも、地下道や跨道橋(こどうきょう)の下、局所的に低くなった道路区間なども要注意エリアです。

また、意外な盲点として排水設備の機能不全があります。道路脇の集水桝に落ち葉やゴミが蓄積すると排水が妨げられ、本来であれば問題のない降水量でも局所的な冠水が発生する場合があります。

クルマが浸水したときのリスク

車内に浸水すると、クルマにさまざまな不具合が発生します。道路冠水の水位がクルマの床面を超えると電気系統が損傷し、30cm程度でエンジンが停止。さらに50cmを超えると車体が浮き始め、水流のある場所ではクルマが流される危険性が高くなります。

さらに深刻なのは人命に関わるリスクです。水圧によりドアが開かなくなったり、電気系統の故障でパワーウィンドウやスライドドアが作動しなくなったりすると、車内に閉じ込められる可能性があります。また、悪天候時は視界が悪化するため、ほかの車両からの発見が困難になり、二次的な事故のリスクも増大します。

冠水場所の走行を避けるための事前準備

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冠水リスクを回避する最も効果的な方法は、危険な場所を事前に把握し、適切な情報収集を行うことです。現代ではさまざまな情報ツールが存在しており、これらを活用することで大幅にリスクを軽減できます。

走行前の情報収集

気象庁が提供する「キキクル(危険度分布)」の浸水情報は、リアルタイムで浸水の危険度を確認できる優秀なツールです。降った雨が地表面にどれだけ溜まっているかを数値化した表面雨量指数の実況値と予測値を用いて、浸水リスクを5段階で色分け表示するため、直感的に危険地域を把握できます。

また、国土地理院の「重ねるハザードマップ」では、道路冠水想定箇所がマップ上に表示されます。平常時にこれらの情報を確認し、普段利用する道路の危険箇所を把握しておくことが重要です。

より詳細な情報が必要な場合は、通行予定地域の自治体が公開している「浸水履歴マップ」や「浸水実積図」を調べることをおすすめします。東京都やさいたま市など多くの自治体で、過去の浸水状況がマップ形式で公開されており、局所的なリスクエリアを特定できます。

車内に備えておくアイテム

万が一の事態に備え、車内には「緊急脱出用ハンマー」を常備することを強くおすすめします。多くの製品はガラス割り機能とシートベルトカッター機能を併せ持ち、車外への脱出に役立ちます。助手席のグローブボックスや運転席のドアポケットなど、緊急時にすぐ手の届く場所に保管しておきましょう。

車両浸水時の緊急対応

実際に車両が浸水してしまった場合、正しい対応手順を知っているかどうかが生死を分ける可能性があります。パニックにならず、確実に対処することが大切です。

車内での安全確保

浸水が始まったら、まずは落ち着いてシートベルトを外して脱出の準備をします。

車外への脱出

水位が低いうちであればドアを開けて脱出できますが、水深が膝上まで達すると水圧によりドアを開けるのが困難になります。スライドドアもパワーウィンドウも機能しない場合は、窓ガラスを割って脱出する必要があります。

緊急脱出用ハンマーを使用する際は、サイドガラスの四隅を狙って強く叩いてください。工具がない場合は、ヘッドレストの金属部分を取り外し、ドアとガラスの隙間に差し込んで手前に引くことで破砕する方法もあります。

窓ガラスが割れたら、破片に注意しながらすみやかに脱出してください。このときあおむけの姿勢で背中側から出るように意識すると脱出しやすくなります。

なお、外と車内の水位の差が小さくなるとドアは開きやすくなります。どうしても脱出が難しい場合は車内の水位が胸~首のあたりまで上がるのをじっと待ち、大きく息を吸い込んでドアを蹴り開けて脱出します。

救助を求める方法

車両は完全に沈むまでにある程度の時間があります。浸水した時点ですぐに119番通報を行い、脱出できない場合は車内で救助を待ちます。前方にエンジンがあるクルマならフロントから沈んでいくので、車内後方に移動しておきましょう。

車両浸水後は必ず車両点検と健康管理を

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浸水事故から脱出した後も、適切な対応を知っておくことでトラブルを防げます。

車両の処置

まず絶対に避けるべきはエンジンの始動です。内部に水が侵入している場合、いきなりエンジンを始動させることで深刻な損傷を引き起こすおそれがあります。故障や不具合の内容によっては、修理費用が高額になったり、車検に通らなくなったりする可能性があります。

電気系統についても、漏電による火災の危険性があります。修理が必要な場合もあるため、まずはロードサービスや販売店などに相談して点検を受けることをおすすめします。高電圧のバッテリーを搭載しているハイブリッド車や電気自動車の場合も、むやみに触らずプロに対応を任せましょう。

個人の安全・健康管理

また、冠水した水には下水や汚水が混入している場合が多く、さまざまな感染症のリスクがあります。特に皮膚に切り傷や擦り傷がある場合、破傷風をはじめとする感染症にかかる可能性が高まります。

浸水に接触した後は、できるだけ早く清潔な水で体を洗浄してください。その後、皮膚に異常がないか確認し、少しでも心配な症状があれば医療機関を受診することをおすすめします。

浸水被害を最小限にする予防策

日頃から浸水への対策を意識しておくことで、被害を最小限に抑えられます。ここでは2つのポイントをご紹介します。

車両メンテナンス

車両の防水加工には限界がありますが、日頃のメンテナンスで浸水時のリスクを軽減できます。

特に重要なのはブレーキとタイヤの点検です。ブレーキパッドの摩耗やブレーキフルードの劣化は、浸水時さらに制動力を低下させる原因になります。

タイヤについては、溝の深さと空気圧を定期的にチェックしておきましょう。常にタイヤをベストな状態に保つことで、浅い冠水路であればある程度のグリップ力を維持できます。

緊急事態シミュレーション

実際の緊急事態では、普段できることも困難になる可能性があります。浸水時脱出のシミュレーション動画などでイメージトレーニングを行い、体に手順を覚え込ませることが重要です。

緊急脱出用ハンマーの使用方法を実際に練習したり、シートベルトを素早く外す動作を確認したりすることも有効です。家族がいる場合は、全員で脱出手順を共有し、子どもにも年齢に応じた対応方法を教えてください。

まとめ:覚えておきたい3つの行動指針

最後に、冠水路での安全確保に大切な3つの行動指針を確認しておきましょう。

止まる(無理に進まない)

冠水を発見したら、決して無理に進行してはいけません。「これくらいなら大丈夫」という楽観的な判断が、取り返しのつかない事故につながります。見た目だけでは水深の正確な判断は難しく、雨のときには路面の状況も見えづらいため、異変を感じた頃にはすでに走行不能になってしまうこともめずらしくありません。

避ける(安全ルートを選択)

少しでも異変を感じたら、多少時間がかかっても安全な迂回ルートを選択してください。アンダーパスや低地の道路は特に注意しましょう。事前の情報収集で冠水リスクの高いエリアを把握しておくことも大切です。

連絡する(早めの通報と支援要請)

自分が危険な状況に遭遇した場合、または他の車両が立ち往生しているのを見つけた場合は、躊躇せず消防(119番)や警察(110番)などに連絡してください。早めの通報は自分自身だけでなく、後続車の安全にもつながります。事故後は保険会社や販売店などへの連絡も行い、適切な処置を受けることもお忘れなく。

水害は予期せぬタイミングで発生し、短時間で深刻な状況に発展する可能性があります。しかし、正しい知識と適切な準備があれば、リスクを大幅に軽減できます。雨の日ドライブの際は、今回ご紹介したポイントを思い出してみてください。

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