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走行税とは?もし導入されたら日本はどうなるか解説!

走行税とは?もし導入されたら日本はどうなるか解説!
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近年、自動車の電動化やエコカーの普及に伴い、新たな自動車税制として「走行税」が国内外で議論されています。従来の自動車税やガソリン税に代わる仕組みとして注目されているこの制度は、私たちの暮らしにどのような影響を与えるのでしょうか。

本記事では、走行税の基本概念から海外での導入事例、そして日本への導入が検討されている背景まで詳しく解説します。

走行税(走行距離課税)とは

走行税は、自動車で走行した距離に応じて税額を決める課税方式です。現在の日本では排気量に応じて課税される自動車税や、燃料に課されるガソリン税(燃料税)が主な自動車関係税となっていますが、走行税は実際の利用量に応じた「使った分だけ」の税金という考え方に基づいています。利用距離が少なければ税負担も少なく、多く利用すればそれに応じて税負担も増える仕組みです。

日本で導入が検討されている理由

日本で走行税の導入が検討されるようになった理由としては、自動車をめぐる環境変化、いわゆる「CASE」と呼ばれる変革が挙げられます。Connected(自動車のIoT化)、Automated(自動運転社会の到来)、Shared & Service(保有から利用への移行)、Electrified(動力源の電動化)という変化が進む中で、従来の税制では対応しきれない状況が生まれつつあります。

具体例を挙げると、燃費性能の向上や電気自動車の普及に伴うガソリン税収の減少です。現行の自動車税制は排気量に基づく課税が中心ですが、排気のない電気自動車には最低税率が適用されます。今後、電気自動車やハイブリッド車の普及が進めば、ガソリン税や自動車税の税収が減少することが予想されています。

また、若者のクルマ離れやカーシェアリングサービスの普及による保有台数の減少も挙げられます。自動車をもつ人が減少傾向にある中で、従来の保有を前提とした課税方式では税収を確保することが難しくなっているのです。

こうした背景から、日本では2022年頃から政府の税制調査会でも走行税について議論が始まり、与党からは自動車関係税の見直し検討課題の一つとして、「利用に応じた負担の適正化に向けた課税の枠組み」を挙げています。走行税について具体的に触れたものではありませんが、クルマの「所有から利用へ」というシフト変化に応じた税制になる可能性が指摘されています。

海外の導入事例

世界各国では既に走行税の導入が進められています。特にアメリカやヨーロッパでは、電気自動車の普及や道路インフラの維持費確保などを目的として、さまざまな形態の走行距離課税制度が実施されています。

アメリカ

アメリカでは一部の州で既に走行距離課金プログラムが実施されています。その先駆けとなったのがオレゴン州で、2015年7月から「OReGO」と呼ばれる走行距離課金プログラムを開始しました。このプログラムは任意参加で、1マイルあたり1.9セントの課金額が設定されています。電気自動車または一定以上の燃費性能をもつ車両は、OReGO に参加することで自動車登録料の追加課金が免除されるのがメリットとなっています。

また、ハワイ州では2025年7月から電気自動車に対して走行距離課金制度が開始される予定で、当初は、1 マイルあたり 0.8 セントの負担もしくは自動車登録料の追加課金(年50ドル)との選択制ですが、2028年7月以降はすべての電気自動車に走行距離課金が義務付けられる計画です。

ドイツ・フランス

ドイツでは2005年1月から高速道路を走行する12トン以上の重量車を対象に、GPS技術を活用した走行距離課金(Lkw-Maut)を導入しています。課金対象は段階的に拡大され、現在は3.5トン超の車両、および高速道路に加えて連邦道路も対象となっています。課金額の算定には、インフラ費用だけでなく、大気汚染や騒音、二酸化炭素排出による外部費用も考慮されています。

一方、フランスでは2009年に重量貨物車を対象とした走行距離課税(エコタックス)の導入を計画しましたが、農業関係者やトラック業界からの強い反対を受け、実施には至りませんでした。計画が頓挫した要因としては、既存の税に代わるものではなく追加増税となったこと、特定の業界に負担が集中したことなどが指摘されています。

走行税のメリット

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走行税の導入には、さまざまなメリットがあるとされています。特に現行の自動車税制では対応できない課題に対して、新たな視点からの解決策となる可能性を秘めています。ここでは主なメリットについて解説します。

自動車を保有しやすくなる

走行税が既存の税金を代替する形で導入された場合、走行距離が短い利用者にとっては税負担が軽減される可能性があります。特に都市部に住み、通勤や日常生活で自動車をそれほど使わない方々は、現在支払っている自動車税よりも大幅に減税になるかもしれません。これにより、クルマに乗る機会が少ない方でも自動車を保有するハードルが下がることが考えられます。

平等に税金を取ることができる

走行税のもう1つの大きなメリットは、すべての車種に対して平等に課税できることです。現行の自動車税制では、排気量に応じた課税が行われているため、ガソリン車の所有者は排気量が多いほど高い税金を払っている一方で、電気自動車やハイブリッド車などの所有者は税負担が少なくなっています。

しかし、道路インフラの観点から見れば、どの車両に乗る人も同じように道路を利用しています。走行税では車種にかかわらず、実際に道路を利用した距離に基づいて課税することで、より公平な税負担が実現できると考えられています。

走行税のデメリット

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走行税の導入にはメリットがある一方で、いくつかの課題も指摘されています。ここでは主な懸念点について見ていきましょう。

物流業界の負担増への懸念

まず1つは、走行距離の多い運送業界への影響です。物流業者は大量の車両を保有し、長距離を走行する必要があります。走行税が導入されれば、走った分だけ税額が増えるため、企業の経営を圧迫する可能性があります。

特に、多くの車両を所有している企業にとっては、税負担の増加は深刻な問題となるでしょう。物流業者がこの増加分を吸収できなければ、配送料の値上げを余儀なくされ、それが最終的には消費者へのダメージにつながる恐れもあります。

地方のドライバーの負担が増える

また、走行税は都市部よりも地方に住む人々に不利に働く可能性があります。地方では公共交通機関の整備が十分でないため、通勤や買い物など日常生活のあらゆる場面で自動車やバイクが必須となっています。必然的に走行距離は長くなり、走行税の負担も大きくなります。

都市部の住民が公共交通機関を利用して税負担を抑えられる一方で、クルマ以外の選択肢が限られている地方の住民は、生活必需品の購入や通院など、必要不可欠な移動にも高い税金を払わなければならなくなります。これは地域間の格差をさらに広げる要因となる可能性があります。

バスやタクシーなど公共交通機関料金への影響

走行税は一般のドライバーだけでなく、バスやタクシーなどの公共交通にも影響を与えます。これらの交通機関も走行距離に応じた税金を負担することになるため、その分のコスト増加を運賃に転嫁せざるを得なくなるでしょう。

特に高齢者など移動に制約のある人々にとって、バスやタクシーは重要な移動手段です。これらのサービスの料金が上昇すれば、社会的弱者の生活を圧迫することになりかねません。同様に、カーシェアリングやレンタカーなどの自動車利用サービスも、走行距離に応じた料金設定の見直しを迫られるでしょう

日本で導入されたらどうなるのか

日本で走行税が導入された場合、そのメリットとデメリットのどちらが上回るのかは、制度設計によって大きく異なります。現時点では具体的な制度内容が定まっていません。単純なメリット・デメリットの比較ではなく、社会全体のバランスを考慮した慎重な検討が必要となるでしょう。

まとめ

走行税とは?もし導入されたら日本はどうなるか解説!

走行税は、自動車の利用量に応じて課税する新たな税制として、世界各国で導入や検討が進められています。日本でも電気自動車の普及やモビリティの変化に伴い、従来の自動車税制の見直しが求められる中、その選択肢の1つとして議論されています。

走行税には、年間走行距離が少ない人の負担軽減や、車種を問わない公平な課税といったメリットがある一方で、物流業界や地方住民への負担増加、公共交通機関の料金上昇といったデメリットも考えられます。

日本での導入にあたっては、既存の税制との関係性や地域間格差への配慮、産業への影響など、多角的な視点からの検討が必要です。また、技術的な課題や個人のプライバシー保護など、運用面での課題も克服しなければなりません。

自動車税制は私たちの生活や社会経済に密接に関わる重要な問題です。持続可能でバランスの取れた制度設計になることを願いつつ、今後も国内外の動向を注視していきましょう。

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