冬用タイヤとして広く使用されている「スタッドレスタイヤ」。凍った路面の水膜を取り除いて、滑りづらくなるのだから、夏のぬれた路面でも問題なく使えるのでは…と思っている人、周りにいませんか? 今回の記事ではその誤解を解消するために、夏タイヤとスタッドレスタイヤの違いについて解説します。
目次
水の膜の厚さ(水深)は、夏と冬とでは大違い!
夏タイヤとスタッドレスタイヤの機能の差として、もっとも大きい違いは「水はけ」能力です。その理由は、夏と冬とでは路面上の水の量が違うこと。雨天時の路面には、厚さにして1〜2mmの水膜が生じます。路面の凹みにできた水たまりであれば数センチに達するところも。
一方、冬の凍結路面で、氷の上にできる水膜はわずか数ミクロン。同じ水膜といっても季節によってその厚さは大きく違うのです。
夏タイヤとスタッドレスタイヤの違いは?
2つのタイヤを比較して異なるのは、水はけ能力だけではありません。
水膜を取り除く方法
雨天時と凍結時では水の厚さが違うため、水膜を取り除く方法も、夏タイヤとスタッドレスタイヤとでは違ってきます。
- 夏タイヤは厚い水膜をはじき飛ばす
- スタッドレスタイヤは極薄い水膜を吸い上げる
この差は、タイヤのトレッドパターンやゴム剛性の違いにもつながります。トレッドバターンを見比べると一目瞭然。夏タイヤに比べ、スタッドレスタイヤのほうが細かなサイプ(溝)が多いのがわかります。
このサイプで数ミクロンの水膜を吸い上げるのがスタッドレスタイヤ。一方夏タイヤはサイプが少ないため、スタッドレスタイヤよりも硬く、水膜に対して高い圧力を加えられるようになっています。
「吸い上げる」と「はじき飛ばす」。スタッドレスタイヤと夏タイヤでは、そもそも水膜除去のメカニズムが違うのです!
ゴムの硬さ
またトレッドのゴム剛性にも大きな違いがあります。スタッドレスタイヤのゴムは夏用タイヤに比べて柔らかく、氷の路面にぴったりと密着するように作られています。密着するからこそ水膜の吸い上げが可能なのですが、柔らかい分だけ厚い水膜をはじき飛ばす力は当然少なくなります。
一方、夏タイヤは、灼熱の路面でもゴムがフニャフニャになることがないよう、しっかりとした剛性を備えています。その分路面にたまる厚めの水膜も、力強くはじき飛ばして排除し、スリップを防止します。
もし、スタッドレスタイヤのまま夏にドライブをしたら…?
夏のぬれた路面を、スタッドレスタイヤで走行しても、水膜は取り除けるのでしょうか? 答えは「グレー」…取り除けないわけではありませんが、夏タイヤほどのウエット性能(グリップ力)は期待できないため、使い方によっては思わぬ事故につながる危険性もあります。
制動距離が長くなる
JAFが行ったテストでは、ウエット路面でもドライ路面でも、摩耗した夏タイヤよりスタッドレスタイヤのほうが制動距離が長いという結果に。これはタイヤのゴムのやわらかさが影響していると考えられています。スタッドレスタイヤは低温下でも硬くならない反面、気温の高い夏場は柔らかくなるため、濡れた路面では特に摩擦力が低く、滑りやすくなります。また、乾いた路面ではトレッドに細かく入った切れ込みがブレーキ時にかかる力に負けて変形しやすくなり、夏タイヤよりもブレーキ性能が劣るので注意が必要です。
タイヤの寿命が短くなる
一般的には季節の変わり目に履き替えることを前提としているので、使用期間が長くなればなるほど摩耗が進み、タイヤの寿命は短くなっていきます。また、スタッドレスタイヤは気温の高い夏場はゴムが柔らかくなり、乾燥路面を走行する場合、摩耗が早くなるため注意が必要です。
なお、スタッドレスタイヤは、プラットフォームが露出した後もスリップサインが出るまではノーマルタイヤとして使用できるため、限界まで履きつぶすという人も少なくありません。夏にスタッドレスで走る場合は安全のため、路面の状態にかかわらず早めのブレーキを心がけましょう。また、梅雨や夏のゲリラ豪雨時にはクルマの速度が上がるにつれて「ハイドロプレーニング現象」が起こる可能性も高まるので、こちらも十分ご注意ください。
使用が終わったスタッドレスタイヤの保管方法
使用後のスタッドレスタイヤは、適正空気圧の1/2程度まで空気を抜いてゴムの緊張をほぐして保管します。再装着時は忘れずに使用空気圧に調整してください。ホイールを装着したまま保管する場合は、変形を防ぐために平積みにしましょう。また、劣化の原因となる直射日光はタイヤの天敵! 日の当たらない平らな場所を選んでください。タイヤにカバーをかけずに保管するなら、汚れ防止のため下に段ボールなどを敷いておくと安心です。
夏タイヤとスタッドレスタイヤの「水膜除去機能の差」を理解して、季節に応じたタイヤ選びをすることは、事故の防止にも直結します。タイヤの交換時期には今回ご紹介したポイントを思い出してみてくださいね。