ここ数年「100年に一度」といわれる変革の時代に突入している自動車業界。
電気自動車や自動運転といった自動車自体の機能だけでなく、自動車のあり方・利用方法にまで変化は及んでいます。そのひとつが「MaaS(マース)」と呼ばれる新しい移動の形。
今回はこの「MaaS(マース)」について改めて解説していきます。
人びとの移動を助ける「MaaS」とは?
MaaS(マース)とは「Mobility as a Service」の略で、直訳すると「サービスとしてのモビリティ」となります。つまり「移動そのものをサービスとして捉える」という考え方です。
MaaSは電車やバス、レンタカーの手配に至るまで、スマホひとつでルート検索や決済ができるサービスです。
旅行先の慣れない土地では、乗り物のチケットを買うだけでも時間がかかったり、発着時間が合わなかったり、乗り降りのたびにルートを調べて……とひと苦労。MaaSでは自動車だけでなく、電車やバスなどの公共交通や自転車などの移動手段も含んでいる点が特徴です。
日常の通勤通学ほか、観光などさまざまな“移動ニーズ”に対応し、複数の移動手段を最適に組み合わせたルート検索や予約、決済までを一括で行えるのです。
欧米や中国では続々登場しているMaaSのサービス
すでに欧米ではMaaSの本格的な導入が始まっています。
フィンランドのヘルシンキでは「MaaSグローバル」社が開発したアプリ「Whim」が広く活用されています。「Whim(ウィム)」はMaaSという言葉を広めるきっかけとなったアプリでもあり、目的地を指定すると、さまざまな交通手段を含んだ複数のルートが提示され、そのまま予約・決済まで行えます。
またドイツのアプリ「moovel(ムーベル)」は、公共交通機関のほかタクシー、カーシェア、レンタサイクルなどを統合し、交通をシームレスにつなぐサービス。同じく予約や決済までできるほか、リアルタイムでの交通状況を把握できる点が特徴です。そのためルート検索で渋滞や運行遅延を避けたり、料金が安いルートを選ぶことも可能です。
そのほかアメリカや中国でも類似のサービスが続々と登場。特に決済機能については、Apple PayやGoogle Pay、QRコード決済など、現金のやりとりが発生しない非接触サービスに力がいれられています。
国内でも、大手企業や交通会社によるサービス事例が続々登場!
こうした事例を聞いていると、ルート検索機能だけであれば日本にも同様のサービスがいくつか見られますよね。そしていま、公共交通機関や自動車会社などが中心となってさらなる開発を進めています。
トヨタとソフトバンクの共同プロジェクト「MONET Technologies」では、人やモノ、サービスをつなぐ仕組みづくりを開始。トヨタの新車を月額で利用できるサブスクリプションサービス「KINTO」や、スマホから簡単に利用できるカーシェアリングサービス「TOYOTA SHARE」をリリースしました。
小田急電鉄は2019年、オープンな共通データ基盤「MaaS Japan」を活用したMaaSアプリ「EMot(エモット)」のサービスを開始。複合経路検索と電子チケット発行の機能だけでなく、飲食のサブスクリプションサービスや、ショッピングの特典チケットなど、モビリティだけに止まらないアプリとなっています。
また新型コロナ禍で利用客が減少してしまった広島電鉄では、地元のバス会社やJR西日本の乗り物を1枚のチケットで利用できるサービスを開始。それがスマートフォンをチケット代わりに使える「MOBIRY(モビリー)」です。路面電車やバスだけでなくフェリーやロープウエーを、時間単位(8時間から72時間)で利用でき、アプリをダウンロードする必要もありません。外国人観光客向けに英語にも対応する一方で、地域住民の日常生活でも使ってもらうべくサービス向上を進めています。
今後、MaaSはどう広がっていく?
国土交通省では、国内でさらにMaaSのサービスの裾野を広げるべく「MaaSに不可欠な交通事業者のキャッシュレス化や交通情報のデータ化などについても、財政面、ノウハウ面で支援し、MaaSによる移動の利便性向上を進めております」と発表としています。
トヨタの事例に見られるように、自動車メーカーでも車両提供の枠を超え、他の移動手段も巻き込んだサービスを展開しています。交通分野だけでなく、観光や地方創生、物流や医療などさまざまな産業と関係したサービスが生まれてくるかもしれませんね。