降り積もった雪の下に隠れた、踏み固められた凍結路で足をツルッと滑らせてヒヤッとした経験は誰もが一度はあるはず。晴れた日の乾いたアスファルトと違い、摩擦係数が極めて低くグリップしにくいため人が歩くのも大変です。
そのような路面状況であっても、車で安全に走行するために作られているのがスタッドレスタイヤです。雪がかぶり、路面が凍っていてもしっかりと路面を捉えてくれる、冬のドライブには欠かせない、自動車のための雪道対応シューズ・ブーツとなる存在です。
スムーズに発進し、スッとカーブを曲がれて、ブレーキング時の制動距離も短い。ハイレベルなスタッドレスタイヤなどは、無理をしなければ乾いたアスファルトの上を走るサマータイヤと変わらぬほどの安心感があり、頼れるもの。そんなスタッドレスタイヤをはじめとする冬季対応タイヤをテストしているのがサロマテストコースです。
リポート①ではその概要を紹介しましたが、リポート②では実際に行われているテストの一部を紹介します。
目次
タイヤの性能評価に使用する車両はFR、FF、そして4WD
ダイレクトな加速性能、前後の重量バランスにからくる優れたコーナリング性能を持つFR。直進安定性が高く、軽量で、さまざまな車両のタイプにマッチするFF。雪道やオフロードでの安全性、発進性、走破性が高い4WD。
トーヨータイヤでは、乗用車用のスタッドレスタイヤやオールシーズンタイヤのテスト時に、この3種類の駆動方式の車両を使ってタイヤの性能を評価しています。
気温の異なる時間帯で複数回のチェック
タイヤのテスト時間は18時~3時。日によって異なりますが、まずは気温が0度前後のときに実走してチェックし、次に-15度近くなる深夜の時間帯でチェックします。気温の違いによるタイヤの状態の差を確かめるというわけですね。
発進時のトラクションをチェック
テスト用のタイヤを装着した車両が管理塔から外周コース部に出たら、まずは停車します。そこから、市街地の一般道であると想定して緩やかにアクセルを踏み込み、発進します。このときのトラクションをチェックするのが目的。タイヤが雪道を走る時にどの程度の発進性能を持っているかを確認します。
発進したらまたすぐに止まり、今度は強めにアクセルを踏んでトラクションの状態を確認します。このように何度か繰り返して、テストしているタイヤのフィーリングを確かめていきます。
同時に登坂路での発進時のトラクションもチェックします。グリップを失ってずりずりと滑り落ちるようなことがないか確かめながら走行します。
加速中のトラクションをチェック
一般道での車の流れに乗るように、発進後、そのまま緩やかに加速を続けていきます。ここで加速時のトラクションをチェックします。
テストするタイヤによって、FR、FF、4WDなどと駆動方式の違いによる空転具合も確認。駆動輪のグリップ状態、駆動輪以外のタイヤのグリップ状態を確かめていきます。
スラローム(進路転換)での応答性・安定性をチェック
コース内の勾配のある箇所では、比較的低速な状態を維持したままハンドルを左右に切ってスラローム(進路転換)します。このときにチェックしているのは応答性とハンドルの手応え。ハンドルを切ったとき、素直に向きが変わるかどうかを重視します。
コーナリング時のハンドリング・加減速を含む安定性をチェック
コーナー部分に差しかかったら、ハンドルを一定の角度で切ったままでのトラクションをチェックします。タイヤの振動やグリップ状況など、ハンドルから手に伝わってくるステアリングインフォメーションや、シートや車体から伝わってくる情報を全身で捉えてフィーリングを確かめます。
高速道路も視野に入れた直進性・緊急回避やレーンチェンジ時の安定性(安心感)をチェック
900mの長い直線路まできたら、1周目は一般道を想定した速度(60km/h前後)まで加速し、トラクションをチェックします。2周目は高速道路を想定した速度(110km/h~120km/h)まで加速します。
その速度で走ったときにハンドルがとられないかどうかの確認も重要ですが、レーンチェンジを意識してスラロームを行ったときの応答性もチェックします。徐々にスピードを上げつつ、ハンドルの舵角を大きくして、極端な挙動の乱れがないかどうかをチェック。特にリアの挙動を確認しているそうです。
そして最後に強めにブレーキング。ABS作動時の制動距離をチェックします。
轍路における低速域でのふらつきや進入・脱出の容易さをチェック
900mの直線路の横には轍路が用意されています。かなり深い轍が作られているのですが、こういう状態もあると想定しての状態となっています。ここでもスラロームをするのですが、轍をスムーズに乗り越えられるかどうかが焦点となっています。
アイスドームで制動距離・加速性能をチェック
外周路の内周部にも、さまざまな試験設備があります。その1つがアイスドームです。大型ドームの内部は気温をある程度コントロールでき、安定した路面状態で試験ができます。アイス路面でのブレーキング時の制動距離のチェックや加速試験を行っています。
欧州向けタイヤの場合はハンドリング路でもチェック
同じスタッドレスタイヤやオールシーズンタイヤの性能試験でも、販売される地域の違いによって重視するチェックポイントや、試験項目が変わる場合もあります。
日本市場では主に制動距離の短さ=ダイレクトな安全性能が求められ、性能試験では縦方向のグリップバランスが重視されます。
対して欧州ではワインディングコース走行時の性能が重視されます。そこで欧州向けのモデルは、ワインディングコースを模したハンドリング路でハイスピードな限界走行を行い、横方向のグリップバランスをチェックします。同じ冬シーズンであっても、地域によって求められるタイヤの性格が異なるというのは面白いですね。